一粒の種子 むくむくと茂り緑全土を覆ふ その1

    昭和9(1934)年3月17日、『大阪時事新報(おおさかじじしんぽう)』には、海を渡り阪南の地で育ったフランスカイガンショウという松が大阪の各地に植えられたことを報じています。この記事では、この松が植えられた経緯や特徴が述べられていますので、以下に紹介します。

    大正5(1916)年春、箱作出身の生田伊作(いくたいさく)という人物が長野県営林局を退職して帰郷した際、フランスカイガンショウを発見、繁殖(はんしょく)させました。

    昭和9(1934)年、大阪公園協会が計画した皇太子誕生の記念植樹事業に応じ、生田は繁殖させたフランスカイガンショウの苗木1,000本を寄贈し、府営四公園(住吉、住之江、箕面、浜寺)に植えられました。

    この松は、葉の長さ1尺、松毬(まつぼっくり)の長さ6寸、成長率は日本松の3倍とも言われ、4年目には1丈(じょう)、15年目には周囲2尺(約60.6cm)という超スピードで成長し、原産地では電柱、枕木、汽船のマストなどに使われていました。当時、石鹸(せっけん)やテレビン油樟脳(しょうのう)などになくてはならない樹脂(じゅし)も、フランスカイガンショウからは、一昼夜に2.5匁(もんめ)が採取でき、年額1千万円にも上る樹脂輸入を減らすことができるため、公園協会でも早速植林に着手することになりました。

 

     『時事新報』:明治15(1882)年に福澤諭吉(ふくざわゆきち)が創刊した日刊紙で、明治38(1905)年に大阪へ進出し『大阪時事新報』を創刊。昭和17(1942)年に『夕刊大阪』と合併した。

    フランスカイガンショウ(仏国海岸松):地中海西部沿岸域を原産とするマツ科マツ属の常緑針葉樹(じょうりょくしんようじゅ)。高さは20~35m、幹(みき)の直径は胸高で1.2m程度から例外的に1.8mまでになる。樹皮は赤みが強く、深い裂け目が生じる。松葉は長く12~22cmにもなる。松毬は閉じているときの長さが10~20cm、径は4~6cmとかなり大きく、成熟前は緑色、24ヶ月かけて次第に熟し赤茶色になる。

   テレビン油樟脳:針葉樹の幹に切り傷をつけて採取した樹脂を蒸留(じょうりゅう)、精製(せいせい)して得られる精油。各種溶剤(ようざい)およびニスの製造などの原料になる。

 

    箱作:現阪南市箱作。

    皇太子:現上皇。第125代明仁天皇のこと。

    1尺:約30.3cm。

    6寸:約19.8cm。

    1丈:約3.8m。

    2.5匁:約9.375g。フランスカイガンショウから採取できる樹脂は日本松の約3.8倍の量。

 

 

フランスカイガンショウ

フランスカイガンショウ

フランスカイガンショウの樹皮

赤く、深い裂け目を生じる樹皮

フランスカイガンショウの松毬

松毬(向かって左がクロマツ、右がフランスカイガンショウ)

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